おはぐろとんぼ
ハグロトンボ♂ 2019年7月19日(犬山市富岡付近)
おはぐろの方三尺を生きて舞ふ 邊見京子『合本俳句歳時記』四版
蝶の如く優雅に飛ぶ、いや、やはり舞うといったほうがいいかもしれない。
幼いころ郡上の実家でよく川遊びをした。せせらぎ、鮎の香、そして黒い翅の蜻蛉。従姉妹たちはそれを「川とんぼ」といっていたので、長い間そう思い込んでいたが、「かわとんぼ」には幾つか種類もあるらしい。
はぐろとんぼは、「鉄漿蜻蛉(おはぐろとんぼ) 」とか「御精霊蜻蛉(おしょらいとんぼ)」、「神様蜻蛉」などともいう。ただし「精霊とんぼ」といわれる種類ははぐろとんぼに限らない。
おはぐろとんぼ、という呼び名は宇江佐真理の「おはぐろとんぼ 稲荷堀」を読んだときにはじめて知ったのだとおもう。短い話だが、江戸の料理茶屋の板場で働く料理人たちを情感豊かに描いていた。同じ本の五話目「御厩河岸の向こう 夢堀」も印象にのこる。
彼女が亡くなってからもうすぐ4年になる。
きのう買い物帰りの昼、道路沿いの小さな林の周辺でハグロトンボにカメラを向けた(今月5日のときは林の奥のほうに♀が潜んでいたが、今回は林の出口あたりに♂ばかりが飛んでいた)。
はじめは警戒するような動き方だった。しかし時間が過ぎると、カメラを近づけても逃げなかったり、むしろこちらに寄ってくるものさえいた。その動き方や閑かな林の雰囲気もあって、まだお盆までには間があるのに、これはやはり精霊の遣いなのかもしれないとおもいはじめた。
遠くで蝉が鳴いたような気がした。そろそろ梅雨も明ける。
ハグロトンボ♀ 2019年7月5日(犬山市富岡)
ハグロトンボ♀ 2019年7月20日(犬山市富岡)
参考
「おはぐろとんぼ 稲荷堀」
『おはぐろとんぼ 江戸人情堀物語』所収
宇江佐真理 実業之日本社文庫 2011年