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2019年12月 4日 (水)

鯖と雁(弐)

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         犬山成田山より(1/12/2019)    

文庫を読み始めたが、なんとなく物足りない感じがして、古い単行本が閲覧できないかと国会図書館のデジタルコレクションを探してみたら、森林太郎著・大正4年籾山書店の初版本を見つけた。このほうが楽に読めた

読み終わってから気がついたことがある。
ひとつは「お玉」のこと。
この女性の印象はこれまで朧気なままだった。お玉の人物像や生い立ち、そして囲い者としての境遇などについては、高校生の僕はほとんど無関心だったようで、それらを記した物語の前半を斜め読みしていただけだった。今回読み直してみて、お玉という人物に少し近付けたような気がする。
もうひとつは後半の【弐拾弐】。ここで物語が大きく動く。
下宿で鯖の「未醤煮」(焼き鯖だったらよかったらしい)が夕飯に出たために食べることができず、僕は岡田を誘って散歩に出、二人が不忍池(小西湖)で石原と出会い、「雁」を仕留める話へと続く。岡田が投げた石が、そのつもりは無かったのに偶々一羽の雁に中ってしまった。これらの出来事がお玉と岡田の運命を変えてしまう。

気になるのは、僕と岡田が石原と出会ったときの不忍池の描写。
高校生のころから記憶にのこる「bitume色」というフランス語が出てくる。それまで人間臭い話が続いていたのに、不意に冬枯れの風景描写が挿まれている。
鴎外を生涯の師と仰いだ荷風がその描写をとくに好んだ箇所だ。枯れた葦、敗荷ばかりの池の風景。(参へ)

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