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2020年3月

2020年3月11日 (水)

横網町公園と明治村

きのう3月10日は、下町空襲といわれた東京大空襲(75年前・1945年)の日。
そして9年前の今日のことを思い出す。
入学試験の採点業務の場にいた私は、建物がゆっくり揺れていることに気づいた。業務に専念していたひとの大半は全く感じていない様子だったが、そのとき父がよく語っていた嘘のような話を思い出していた。

1923(大正12)年の関東大震災のとき、私の父は1歳半だった。地震があるたびに、「大震災のとき、岐阜もひどい揺れだった記憶があるんだ」が父の口癖だった。繰り返し真剣な顔で話をする父に、嘘に決まっているじゃないか、と私は笑い飛ばした。おそらく岐阜は震度4ぐらいであったらしいから、たしかに揺れは大きかったのだろうが、それにしても1歳半のときの「記憶」があるなどという父の話は、全く眉唾としか思えなかった。だが今になってみると、父の話をもっと真剣に聞くべきだったと思うようになった。
おそらく父の記憶は幼子を抱いていた母(祖母)の記憶であり、その後何年にもわたって祖母が大震災のことを父に語り続けたことで、その記憶がそのまま父の大切な記憶として受け継がれていったのではないか。そう考えるようになったのである。(しかし先日、友人のひとりは「1歳半の子にも体感としての記憶は残るかもしれない」と言っていた・・・。)

ところで2015年の晩秋、「横網町公園」の東京都慰霊堂と復興記念館を訪ねたことがある。
当時或ることについてどうしても調べたい資料があり、たまたま娘も東京に用事があったので、それならということで一緒に上京することになった。娘の用事、そして自分の調べが済んだ翌日はとくに予定がなかったので、以前訪れた
「横網町公園」のことが急に頭に浮かび、出かけることにしたのである。娘にも見てほしいと思ってのことだった。
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           東京都慰霊堂・三重塔 (29/Nov./2015)
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                慰霊堂内部 (29/Nov./2015)

慰霊堂には、16万人を超える遺骨が合祀され、震災と空襲の出来事を象徴するかのように祭壇に大きな位牌二柱も安置されている。日曜日ということもあったのか、以前に来たときよりその日の参拝者は多かった。
さらに公園内の復興記念館にも1時間以上いたが、その間自分たちを含め来訪者はたった3人だった。

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      東京都復興記念館(29/Nov./2015)

復興記念館の展示資料写真を見ていたとき、娘が指さしながら「これ明治村で見た」と言った。
それはのちに明治村(犬山市)に移築された「東京驛警備巡査派出所」の震災時の写真であり、説明書きに派出所が明治村に現存していることが記されていた。
当時多くのひとたちがこの派出所に捜索人や安否確認のビラを貼り、上野の西郷像も同じようにビラ貼りの場所となっていたのだ。明治村に行く度に毎回その外観を見ていたが、震災時にそうした場所であったことを初めて知ったのである。
そういえば9年前も全く同じ光景が被災地にあったことを思い出す。
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東京驛警備巡査派出所」    『大正戦災志写真帖』119頁
犬山市・明治村 Oct./2019    内務省社会局編(1926年)

余談になるが、明治村の「派出所」の向かい側には、隅田川に架かっていた旧「新大橋」(明治45年建設)の25㍍分も移築されている。
大震災のときは猛火によって他の橋がほとんど焼けた中、旧「新大橋」は焼け落ちることなく、多くのひとがこの橋によって難を免れたという。そのため「人助け橋」といわれ、住民の感謝の対象となった。
東京市の市章のある橋の門構の上部や歩道の高欄(欄干)部分の意匠の柔らかで優雅な曲線は、いつ見ても美しいと思う。「派出所」も駅本屋のデザインとの連続性が保たれており、今すぐにでも東京駅へ戻ることができるような気がしてくる。ちなみに明治村北口には「SL東京駅」があり、村のなかほどにある「SL名古屋駅」までSLが走っている。
震災や戦災をくぐり抜けたこれらの建造物は、忘れてはならない大切な記憶装置であり、いつまでもこの姿であってほしいと願うばかりである。
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     新大橋(隅田川架橋) (明治村 9/Oct./2019)

参考:
『大正戦災志写真帖』 内務省社会局 1926年 
          (国会図書館デジタルコレクション参照)
『博物館 明治村ガイドブック』 博物館明治村編集 平成30年版


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