母の小祥
かげろふや塚より外に住むばかり 丈艸
小祥なり。
実家近くの山々が黄金色に染まるなか、
母を見送ったことが、きのうのことのようだ。
墓苑から眼下に犬山橋。
向こう岸は故郷の地、美濃。
合祀墓のそばに一本の老桜があって、
この一角が桜吹雪に覆われたのは、ついひと月前のこと。
むかし墓苑をあらたに拡げようとしたとき、崖際にあったこれを、職人があえて切らずに残し置いたものであろうか。
傍らに桜があるから、ここに合祀墓を定めたひともひょっとするとあったかもしれない。
寺一帯、今は椎の花や青葉若葉で覆われ、風薫る季節となった。
墓苑から遙か西を望めば、西美濃の山々、岐阜城も見える。
家に帰って芥川の『点鬼簿』を読みながら、
晩年の父や母の姿、
遠い日の祖父母や縁者との思い出を振り返ってみるのである。
あの丈艸の句は、もちろん芥川ほど「押し迫って来る」ことはなかったが。
母の古里郡上の、川と山々にもそろそろ挨拶に行かなくては。