つくづくし
川沿いを散歩していると、土筆や蓬が目立つようになった。
きのうはご婦人方数人が黙々と土筆を摘んでいたし、愛犬散歩の男の方は手に何本も大事そうに握っていた。
走りたき犬なだめつつ土筆摘む 都筑智子
何年か前には、小さな子どもたちも土筆を摘みながら遊んでいる姿をよく見かけたのだが、最近はそうした風景に出会う機会もなくなった。
まゝ事の飯もおさいも土筆かな 星野立子
自分で摘んだ土筆を食べたのは、今からもう40年以上前のことになるか。食べ物の記憶は案外いつまでも残っているものだ。
わけもなく機嫌直らず土筆飯 飯島晴子
はっきり憶えている。仕事を辞め実家の寺を継ぐことになった彼のために、送別会を兼ねて友人たちが集まり、岐阜の長良川土手で土筆を大量に摘み取り、それを彼の寺の庫裏で全員が調理することになった。ところが袴を取ったり、あく抜きするのが面倒になり、誰もがいきなり調理しようとしたら、そばで見守っていた彼のお母様から厳しいお叱りをうけた。「もう見てられないわねえ」といった有様だったのだろう。
とにもかくにも、卵とじ、酢味噌和え、そして天ぷら(かき揚げ)など、考えられるすべての土筆料理を作り食した末、全員一致の感想は、土筆は天ぷらに限るなあ、だったが、なぜかは誰もが分かっていた。
そういえばあのとき、お母様が餡や蒸した蓬を準備しておられ、みんなで臼と杵で餅をつき、草餅もこしらえたのだ。古びた大きな庫裏で仲間とつくった土筆料理や、つきたての温かい草餅の美味しさは、今も忘れることができない。
草餅の柔かければ母を恋ふ 川端茅舎
2021/3/14 犬山市 新郷瀬川にて
(雨上がりのあと、14日と今日15日も不思議なほどの青空)
※季語:土筆
つくづくし つくしんぼ 筆の花
筆頭菜 土筆野 土筆摘
土筆和(つくしあえ) 土筆飯(つくしめし)
土筆汁(つくしじる)
『角川俳句大歳時記』
| 固定リンク
« 奈良の春 | トップページ | 人情噺 文七元結 »
「日記・コラム」カテゴリの記事
- From 1880 to 2021(2022.09.25)
- 竹の春(2022.09.09)
- コメント欄について(2022.04.30)
コメント